今の住宅で土間といえば、玄関の一部を思い浮かべる方が多いと思います。靴のまま入れる玄関土間や、自転車や趣味の道具を置く広めの土間を、間取りに取り入れた家も増えました。ただ、昔の家の土間は、今の玄関土間とは役割が違っていたと言われています。靴を脱ぐ手前の場所というだけでなく、仕事をしたり、荷物を扱ったり、家族が手を動かしたりする場所としての暮らしの一部だったと考えられます。昔の家には、なぜ土間があったのか。地域や時代によって違いはありますが、よく挙げられる理由を順にお伝えしていきます。
1 .土間は作業の場
でもあった

昔の日本の家は、床を張った床上と、土やたたきで仕上げた土間に分かれていることが多かったとされます。床上は畳や板の間で、家族が過ごし、客を迎える場所でした。土間は靴のまま出入りできるため、屋外の仕事を屋内へ引き込む作業場としても使われたようです。
2 .農家の土間作業

収穫した作物の運び入れ、薪の積み入れ、農具の手入れなどを土間で行っていました。農家の土間では、こうした季節ごとの作業が行われたと言われています。かまどが土間に置かれ、煮炊きも同じ場所で行う家も多かったようです。雨や雪の日は、外で作業ができません。屋根の下に作業場があれば、天候に左右されずに仕事を続けやすくなります。たとえば岩手の南部曲り家は、馬屋が土間につながる造りとされています。寒い冬も、外へ出ずに馬の世話をしやすい工夫だったと説明されることがあります。家は暮らしの場であると同時に、仕事の場でもあったと考えられます。
3.店と住まいをつなぐ町家の土間

通りに面して店があり、奥に住まいが続く。町家では、土間が仕事と生活をつなぐ動線になっていたと言われます。京都の町家に見られる「通り庭」は、表から奥へ抜ける土間のことです。商品や荷物を外から運び込みやすく、台所もこの土間に沿って並ぶことが多いとされます。今の住宅でも、買い物帰りの荷物を玄関から台所や収納へ運ぶ動線を考えます。形は違っても、外から入ってきたものをどう家の中へ運ぶかという考え方には、通じる部分がありそうです。
4 .汚れや水を床上に上げない

土や水、泥を持ち込む仕事は、畳の上では行いにくいものです。薪、野菜、魚など、汚れる作業には、汚れてもよい床が向いています。土間で汚れを受け止めれば、床上は清潔に保ちやすくなります。床上と土間を分けた背景には、仕事と暮らしを両立させる工夫があったと考えられます。
5 .土間は外と内の間にあった

前回の【#02 昔の家には、「玄関」がなかった?】では、玄関が外と内の境界として働いていたことを紹介しました。土間も、その境界に位置する場所です。戸を開けると、すぐに畳の部屋があるのではなく、まず土間があり、一段上がって床上に入る。そうした造りの家は少なくありませんでした。外で使うものを扱う場所と、家族がくつろぐ場所を段差で分けることで、家の中を清潔に保ちやすかったと思われます。土間は、外と内を切り離す場所というより、つなぐ場所だったと見ることができます。
6 .上がり框が土間と床上の境目になっていた

土間と床上の境目にあるのが、上がり框です。靴を脱ぎ一段上がる行動は、今の玄関にも残る形です。昔の家では、この段差が暮らしの切り替えを表す意味を、今より強く持っていたのかもしれません。土間は外に近い場所、床上は家の中で暮らす場所。段差があることで、ここから先は家の中だと体で感じられます。玄関の上がり框は、こうした住まい方の名残のひとつと考えられています。
7 .土間は人とモノの出入りする場所

人の動線だけを追うと、土間の役割は見えにくくなります。昔の家には、薪、農具、収穫物、商品など、さまざまなものが運び込まれたと言われます。土間は、ものを運ぶ動線でもあったと考えられます。今の暮らしでも、買い物の荷物、子どもの外遊びの道具、ベビーカー、キャンプ用品など、外から持ち込むものは多くあります。時代が変わっても、何を外から持ち込むのかを考えることは、家づくりの出発点になります。
8 .仕事と暮らしに近い家
今は、家で暮らし職場で働くという分け方が一般的です。昔は、そうとは限りませんでした。農家なら農作業、商家なら商売、職人ならものづくり。家そのものが仕事の場になっている例が多く見られました。仕事の場である以上、家の中に仕事を受け止める場所が必要になります。その役目を担った場所のひとつが土間だったと考えられます。住まいと仕事場が今ほど離れていなかったことが、昔の家に今と違う間取りが生まれた背景のひとつかもしれません。
9. 今も役割を変えて残る土間

では、今の家に土間は不要なのでしょうか。そうとは限りません。玄関を広くとる、靴や外で使う物をしまう収納を設ける、自転車やキャンプ用品を置ける土間をつくる。こうした間取りは、今の住宅にもあります。昔と同じ使い方ではありませんが、外で使うものを家の中へ持ち込む場所という考え方は共通しています。農具が自転車に、薪がキャンプ用品や釣り道具に変わっても、外と内をつなぐ場所が必要になる場面は残っています。
10. 土間の広さは暮らし方で決まる
土間の広さや必要性は、家族の暮らしによって変わります。自転車を室内に置きたい方もいれば、釣り道具をしまいたい方もいます。小さな子どもがいる家なら、ベビーカーや外遊びのおもちゃを置く場所があると助かります。反対に、外で使うものが少なく、居間や寝室を広くとりたい家では、大きな土間は必要ないでしょう。昔の家が、仕事や暮らしに合わせて土間をつくっていたのと同じです。自分たちは何を家の中へ持ち込むのかを考えると、必要な広さが見えてきます。
11. 土間から学ぶ家づくりの考え方
土間を見ると、昔の家が単に古い間取りだったわけではなさそうだと分かります。そこには、当時の仕事、家族の暮らし、道具、外との関わり方が映っていたと考えられます。廊下は人の動きを整理する場所でした。玄関は、外から人を迎える場所です。土間は、外から人、もの、仕事を受け入れる場所でもあったようです。家の形は、暮らし方が変われば変わります。間取りを考えるときは、今何が流行っているかより先に、次の三つを確かめてみてください。
- 家の中で何をしているか
- 何を外から持ち込むか
- どこで作業するか
昔の土間は、今の住宅にそのまま必要とは限りません。ですが、土間が生まれた理由をたどると、家づくりに必要なのは流行の間取りではなく、自分たちの暮らしに合う場所だと見えてきます。
家のカタチには、理由がある。
次回は、昔の家と今の家をつなぐもうひとつの場所、縁側についてお伝えします。


